『Please please run after me!』






トキワシティまで買い物に行った、その帰り。私は、両手に買い物袋(マイ買い物袋、持参よ)を下げてのろのろと歩いていた。
が、視界に映ったあんたのせいで、マイ買い物袋はガシャンと音を立てて地面に落ちた。

「あ、じゃねえか!」

「・・・っ!!」
赤い帽子に赤いジャケット、最後に見たときと何にも変わってない。
よくものこのこと帰ってこれたわね、レッド!

「お、おいどーした?」とか言って心配そうに駆け寄ってきやがったけれど、むかつくことこの上ないから走って逃げてやった。ばかやろう、誰があんたになんか、会ってやるもんか!
全力疾走でもと来た道を引き返す。顔がカッと熱い。息は荒い。目も潤んでいる。全部、全部あいつのせいだわ!


周りの景色が、草むらから町に変わって、また草むらに戻った。今はポケモンを連れていないから、草むらはできるだけ避けて通らなければ。頭の隅で警鐘が鳴っていたが、どれほどの効果があったのかは知れない。私には、この先が何処に続くのか考える余裕すらなかった。
本当は、ちょっとだけ期待してた。でもそれを思うと悲しくなった。振り向いてみたって誰もいないのだ。やっぱり私はただのご近所さんでしかないのかな。私は、こんなに好きなのに。

レッドの、馬鹿。大ばかやろう。いつも勝手にいなくなって、私は後で聞かされる。しかも危ない目にあってるっていうじゃない!最低だわ。何で、私には言ってくれないの?私はそこまでの人間じゃないってこと?だからあんな普通に笑えるっての?ああもしも追いかけてきてくれたなら、全部言ってやれるのに。



冷たい空気にはっとしたときには、周りの景色が大分変わっていた。深く暗い緑に、足下がよく見えない。湿気を含んだ分厚い空気が頬を押す。あちらこちらでガサゴソと音がして、ポケモンの声が響いている。血の昇った頭でも容易に結論が出た。私はトキワの森に入ってしまった。

まさかこんな遠くまで走ってくるとは思わなかった。光は均等に、木の葉の縁をオレンジに染めていた。どうやら入口はあまり近くなく、残念ながら陽も沈むようだ。
困った、私は丸腰だ。ポケモンを持たずにこの森に入った人の話はたまに聞くが、どれも良い話ではなかった。


怖い。とりあえずあまり歩き回らない方がいいという考えに至り、私は太い樹の根元に腰を下ろした。待っていれば、レッドでなくても多分誰かが捜してくれるだろうし、最悪朝にさえなれば自力で帰れるだろう。

全く何で私がこんな目に遭わないといけないんだろう。どれもこれもみんな、レッドのせいだ。私、心配してたのに。すごい心配してたのに。笑顔で帰ってきやがって。「あ、じゃねえか!」ですって?ふざけんな!
髪、伸びてたなあ・・・
顔、傷だらけだった・・・


変わってないなんて、そんなこと、なかった。いつも、格好良くなって帰ってくる。悔しい。くやしい。


・・・駄目だ、他のこと考えよう。そう思って瞑っていた目を開けてみると、もうすでに辺りは真っ暗で、1メートル先すら見えなかった。かなり寒くもなった。ポケモンの声も、だんだんと妖しさを増す。
楽しいことを考えようとしても、すぐに闇にかき消される。できるだけ小さくなって、丸まっていた。頼むから、何も出てこないで。えっと、そういえば此処って、何がいるんだったっけ?まずは虫ポケモンよね。キャタピーとかトランセルとか、

「ん・・・?」
ふと、向こうの方がほんの少し明るくなっていることに気付いた。誰か人がいるんだろうか。だんだんと、明るい範囲がこちらまで近付いてくる。そして、暗さに慣れた目には眩しいほどになった。
ガサガサと音を立てて茂みが動いて、そこからピカチュウが現れた。

「ピッカ!」
「ピカ、見つかったのか!?」


あ、この声、



!!」
「レッド!!」


ピカチュウの後から現れたのは、本物、正真正銘のあいつだった。
捜しに、来てくれたの・・・?

レッドは私のところまで来てしゃがみ、顔を覗き込むようにして聞いた。
「大丈夫か!?怪我は?」

レッドの必死な表情に、心臓が破裂しそうになる。

「な、ないよ、」
「良かった・・・!!」


言うと同時に、レッドが凄い勢いで抱きついてきた。

「れ、レッド!苦しい!」
「あ、悪い!」

私の言葉に、レッドはぱっと腕を離した。
とりあえず、帰ろうぜ。そう言いながらが立ち上がって手を差し出してくれる。で、思い出した。私は今、腰が抜けて、立て、ない。

「れ、レッド。」
「・・・もしかして、立てねえの?」
「ご、ご明察です。」
「しょうがねえな・・・ほら、乗れよ。」
「え、」

ああ恥ずかしいと泳がせた目を戻すと、レッドが私に背を向けてしゃがんでいた。

「や、無理、重いし、」
「何言ってんだよ、他に方法ないだろ?」
「か、肩貸してくれれば、」
「立てない奴がどうやって歩くんだよ。大丈夫だって、俺けっこう力あるから。」
「・・・お願いします。」


結局私はレッドに背負われることになった。暗い森の中を、ピカが先導する。私、こんなに奥まで来ちゃってたんだ。そう思うと、いろいろ言ってやろうとしていた文句を言うに言えなくなってしまった。何でこうなっちゃったんだろう。

しばらくの沈黙の後、レッドが口を開いた。

「何で逃げたんだよ。」
「え、」

改めて理由を聞かれると言葉に詰まってしまう。やはりレッドには思い当たる節がないんだろう。当然なのかもしれない。さっきまで正当だと疑わなかった理由が、どれだけ幼稚なものだと気付いてしまった。


「俺なんかしたか?」
「・・・だって、」

「いっつも勝手にいなくなって、心配させといて、」

一言目を紡ぐと、言葉は、頭から口までそのまま滑り降りてきた。ああ、結局ストレートに言ってしまった。



「・・・ごめん。」
「もういいよ・・・私も、ごめんなさい・・・」
「うん・・・」


それから、森を抜けるまで私もレッドも喋らなかった。
森を抜けると外はまだ予想以上に明るく、今にも落ちそうな夕日が強く私たちを照らしてくれた。






LOSTGIRL